いわて景観まちづくり
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奥州市江刺区中町・川原町 蔵の街づくり
1.地区の概要
奥州市江刺区は、岩手県南部の北上川東部に位置し、東に北上山地、西に奥羽山脈を望む、北上川と豊穣な北上平野に抱かれたまちです。その江刺の中心にある中町・川原町は、昔、北上川の船運を利用した商人が行きかう街として栄えました。その時代、たびたび起こる火災から商品と家財を守るため、多くの蔵を建造し、その蔵の数々が、今なお、まちのあちこちに残されているため、蔵のまちとしても知られています。
2.全般的な課題
船運を利用しなくなってからは、商店街の活気は次第に失われ、また周辺観光地を訪れる観光客が、商店街に寄ることもほとんどないため、経営難などで廃業する商店もふえ、さびしい風景に変わりつつあります。また、まちの宝である蔵も、その歴史的な価値にもかかわらず、近年、街路の拡張などで、次々と取り壊されていく危機に直面していました。こうした状況に危機感を抱いた地元の有志が数年前から蔵の価値に注目し、保存・活用を進めながら、商店街を活性化させようという、景観からのまちづくりをはじめました。しかし、この活動も開始から10年が経ち「蔵町モール」や「蔵まちギャラリー」など、一定の成果をあげてきたものの、今後の活動を考えた場合に、住民の参加や修景の方法などで課題を抱えています。
3.景観点検及び景観改善案の検討(ワークショップ)
〈景観まちづくりキャラバン隊〉が現地に入り、地元の人たちと一緒に景観点検を行いました。その後さらに、点検をふまえての改善策を検討しました。
[ 蔵の街の将来像 ]
蔵のある街並みや小路を活かした歩いて楽しめる回遊性のある街
[ 景観改善の方向 ]
街の中には古い蔵が残されており、黒板塀や蔵を使った商店など、蔵と調和した街並みを活かす方向で景観整備を進める。
一方で、トタン塀やブロック塀、奇抜な色のベンチ、看板などが目立ち違和感を与えるので、街に調和した素材、デザインを工夫する。
裏通りには、日常の生活がにじみ出したような景観があり、外から来た人にとっても大変面白い空間になっている。裏通り、小路を整備して、もっと歩いてもらえるような雰囲気をつくりだす。
街中には景観上のビューポイントが多数あり、しかも適度な距離に点在しているため、歩いて楽しめる街となっているが、これをさらに発展させ回遊性に富んだ面的に拡がりのある街につくり変えていく。
[ 景観改善のための具体的な提案 ]
蔵に配慮したデザインは、色ならば白や黒などの蔵風の色、素材ならば板や石などの自然素材。それに合わせてトタンや電柱など蔵のイメージに合わないところを修景していくことにより、次第に街全体に統一感が生まれる。
小路の先に興味を惹くようなアイキャッチを設置し、訪れた人が思わず小路を歩きたくなるような雰囲気をつくり出す。
小路の空き地などに黒板の塀を設置し、既存の黒板の塀を延長することで、空き地を隠すだけでなく、小路特有の小さなスケール感や街としての統一感を生み出す。
街の中の、ビューポイントや小路の入口、休憩場所などに案内板を設置して、訪れた人が蔵の街の見どころを知ることができるようにする。
空き地や神社などを小さなポケットパークに改装することで、観光客、地域の人々を問わず、一息つける空間にする。
回遊性を考え、通りと通りをつなぎ、それ自体裏と表の入り混じった面白い空間である裏路地を重点的に修景することにより、歩く楽しさが生まれてくる。
● まちの裏通りには蔵がいたるところにあります。様々な意匠の蔵が建ち並ぶ景観は圧巻。
● グループに分かれての景観点検の様子。あいにくの雨でしたが、熱心に街の点検を行いました。
● 蔵を改造したレストランでのお昼
● 思わず歩きたくなるような裏通りの小路
グラウンドワークでの景観まちづくり実証実験
● 明神通り入口の修景 
破損気味のブロックの整備と、案内板の設置を行い、明神通りと道路の境界を  はっきりさせ、そこが入口であることが明らかになるよう改修しました。とくに、案内板の効果は大きく、車で走行中や道の反対側からでも、路地の存在が分かるようになりました。

● 住吉稲荷神社の修景 
住吉稲荷神社の周りに黒い板塀を設置し、心地よい空間を演出するとともに、それまで裏通りへの通り道だった神社を、明神通り内の一つのビューポイントとなるよう改修しました。

● トタン塀の建て替え 
通りの中の壊れかけたトタン塀を取り壊し、黒板の塀を新たにつくり、蔵の街と調和するような塀につくり替えました。場所も明神通り内の比較的目立つところで、効果も歴然とし、トタン塀張替えの良いシミュレーションになりました。

● ブロック塀修景 
ブロック塀に黒板を貼り付けてブロックを隠し、蔵に配慮したデザインの塀  につくり替えました。トタン塀と同様、黒板による修景実験ともなり、黒や板といった素材が街に合うことがよく分かる結果になりました。

● 標示板・ピクトサインの作成 
標示板を作成設置し、訪れた人が街を散策しやすいようにしました。また、商店にはトイレやイスを貸す旨を伝えるピクトサイン設置し、誰もが気軽に休めるよう工夫しました。

● 足元灯の設置  
明神通りに足元灯を設置してのライトアップ。歩行者を通りの中にいざなうような雰囲気をつくりだすことができました。

● 仮設板囲い 
板囲いと花のプランターを持ち歩き、空き地や、ゴミ箱など景観的に気になるところに仮設置しながら、今後の修景の場所、方法について検討しました。その結果、例えば、空き地では、塀を設置することで空き地を隠すだけではなく、街に景観的な連続性が生まれるなど、一定の効果があることが分かりました。